7月12日(日)

苦渋のメデイアステーション最終日


5:00 メイク開始
10:00 準備開始
S#99(銀河VS伊沢、最後の対決)
S#86(落合にライト落下)
S#87(吉田体制)
S#91(吉田堕落)

撮影開始30分前。照明の入る前の暗いセットの中。僕は舞台の階段の上に、撮影の藤澤さんと一緒に座っていた。「大変だけれど、スタッフの味方でいないとな」と藤澤さん。「みんなには見えないところで、ちゃんと闘ってるんですけどね」と僕。次第にスタッフも集まってきて、東映撮影所、ドラマ部分最終日の撮影が始まった。
東映撮影所のこのセットでしか撮影できない部分は全て、午前2:00までに撮影しなければならない。今日までは、他の日に撮影できる確証が出来て、撮影スケジュールを変更してきた。しかし、今日はとにかく省けるものは全て後日回しにする。いつ撮影できるのか?結局そのカット・シーンを撮影するスケジュールは今後もとれないかもしれない。
今日も朝5:00から支度し始めた俳優が、集まって、撮影開始。照明部も昨日の夜の出来事から、「午前2:00までは、責任もって働く!」という気構えで走り回る。しかし、思った通り、“伊沢と銀河の対決シーン“いつも以上に芝居に時間がかかる。背景の人物だけで30人近い人間の芝居がある。1シーン撮り終えたときにはすでに夕方。
休憩の間に、照明の安河内さんから「物理的に撮りきれない」との話を何度も聞かされる。もちろん、言われるまでもなく、僕と監督の中で何度も話してきたことなのだが、手塚監督は「演出には時間がかかっていないんです。技術的な準備を簡略化して、なんとしてもこのカット数はとりたい!」と。
夕食の休憩時間。監督と最後の話し合いをする。「2つ。血飛沫が飛び散るカットに何もトラブルが出ないこと。照明の指示が絵コンテにあるけれど、最低限の舞台は照明してもらうので、その範囲で収めること。そうすれば、撮りきるかもしれない。最悪、松岡俊介さんの下りの2つのうち1つは、撮影できないかもしれない。仕掛けをやめるなり、カットを減らすのなら今が最後です」そこで、始めて手塚監督は、時間配分を書き込んだ予定表をじっと見つめて、「時間が足りなすぎる…」

藤澤さんと安河内さん、美術部の佐々木さん達を集めて、段取り打ち合わせ。「カットは時計を見ながら減らすかもしれない。先ず、一番照明の移動が少ない場所を芝居場にして、その向けで撮影して欲しい。シーンは削除せずに続行!」そして、先ず血の吹き出しの仕掛けが失敗する。勢いと方向が定まらない。この時点で今さっき僕が発表した通りの時間割は崩れ去ったのが、僕を含めたメインスタッフにはすぐに分かった。しかし、一度了解してスタートしたことに水を差すような人間は誰もいない。スタッフ総出で、アイデアを出し合い、血の中を這い蹲って、セッティングを直す。予定時間を30分近く越えて、OKが出る。「この後の掃除の下りはカットします。」手塚監督も、さすがに最低限のカット以外は削除し始める。そこからは、スタッフ間でこのカットが何分で準備可能か宣言してから準備を始める体制に。撮影部が、「監督のコンテの感じを作るために、もう少し明るくしたい」と言えば、「ほら、ライト動かすことになるだろ。すぐやるけどね、時間かかるよ、計っててごらん」と言われる。本番前に「何分だった」と聞くので、「移動に10分、光量の調整に3分!」と言い返す。「……。以外に早かったね」そんな、言い合いをしつつ、しかし、全力で準備し撮影していく。今までで一番の撮影速度。みんなプロだ。
もちろん芝居を無視しているわけではない。懸命にスタッフが走り回っているのを感じながら、だからこそ無駄な撮影をしないよう、監督は細かくメインの芝居を付け、助監督は総出で、背景の芝居を付ける。
そして、午前1:15浅野さんと松岡さんの2人きりの芝居を取り残して終了。掃除婦役の谷津さんとKOJUさんを残して、他のキャストは大至急帰り支度。松岡さんは、猛スピードでメイク替えに入る。これまでは照明替えも極力減らしに突っ走ってきた。しかし、次のシーンはスタジオが終了した暗がりの中での芝居。「よりのカットだけなら、30分位だけど、引きの暗がり照明を作るには、ライトを全部消してセットし直して、1時間それ以上かかる」今まで走り回っていたスタッフも、仕事をやめ、集まってくる。みんなの気持ちも半々なのだろう。「ここまで来て、後1シーンなんだからやろう!」と言う気持ちと、「また、うやむやにして働かすのか?約束だろ!」その思いを口に出しかける者、メインスタッフが行った通りにする、と判断を投出す者。「メディアステーションのセットは明日の朝でなくなります。ただ8月にローケーションはあります。」僕に言えるのはここまで。静まり返ったスタジオの中で手塚監督、「判りました。今日はここまでにしましょう。で、次のシーンは欠番にするのではなく、シナリオを書き直して、新潟でとりましょう」。一同、深いため息とともに口々に「お疲れさまでした」。東映セットはこれで終了である。一番苦労した美術部の肩を叩き、「お疲れさま」
「監督。ただ、ロケーションにこのシーンをもっていけば、他のシーンを削ることになるかもしれませんよ。」と、僕が言うと、監督は「そこは任せます。」「掃除婦の谷津さんとKOJUさんはどうします?」血の吹き出しのシーンの後1シーンカットにしてしまっていた。もし、このシーンでも出番がなくなれば、出演シーンがなくなってします。「いや、お二人とも出て貰えるように交渉して下さい」そう言って、監督は帰っていった。
そして、浅野さんの控室に事情を説明に行く。その後、大急ぎでメイク中の松岡さんのところへ飛んでいく。メイク部と真剣にメイクの具合を相談している松岡さん。「あの〜」と言って事情を説明。「そうじゃないかと思ってましたよ。じゃ、帰りますか」と、一拍置いてにこやかに笑いだす。
とにもかくにも、最悪の事態までは行かず、こうして、“「白痴」史上最悪の7日間”が終わった。
 



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